日本の名著って読んだことありますか?そもそも、どんなものが“名著”と言われるものなのかよくわからないですよね。
私もこのブログを始めたのをきっかけに、ちゃんとした(?)名著を読んでみたいと思ったのですが、何が名著なのか?どんなものを読んだら良いのかまったく見当がつきませんでした。
そこで出会ったのが、『国家の品格』というベストセラーも執筆されている藤原正彦さんが書かれた『名著講義』でした。
タイトルからして、いわゆる『名著』がでてきそうだし“講義”と書かれているので解説付きのおまけがついてくるというなんとも一石二鳥な本だなと思って、迷わず手にとって読んでみました。
『名著講義』は、藤原正彦さんが独断と偏見で選んだ“名著”をお茶の水女子大学の学生さんと本を読んで議論するという大学の講義の様子を1冊の本にまとめたものです。
『名著講義』で「自分の頭で考える」読書の仕方を教えてもらったので少しだけご紹介します。
どんな目的で『名著講義』が開かれたのか?
著者である藤原正彦さん、気象学者であり作家でもあった新田次郎を父にもち、ご本人は数学者として有名な方です。
(新田次郎の『芙蓉の人』や『孤高の人』は自然や心理描写が素晴らしいのでこちらもオススメです。)
数学者といえば、いわば理系の人で「読書」とか「名著」から程遠い存在のような感じがします。そんな“理系の人”がなぜ読書会のような講義を持っていたのでしょうか?
一つの理由は、お父様も作家でお母様も本を出版されており、ご本人も本を何冊も書いていらっしゃって、本が非常に身近な存在だったから。「本を読むのが愉しい」と感じてもらえる講義をやりたかったのでは?と思います。
もう一つの理由は、本文中に書かれています。
「この授業を通じて私は、生まれて十八、九年間、ありとあらゆる偏見でもみくちゃになった学生達に、主に明治期の偉人を通し、日本人としての生き方や考え方に触れさせたいと思った。日本人の原点にいささかでも触れると同時に、「時代の常識」からいったん退き自分自身の頭で考えるという習慣をつけて欲しいと思った。(中略)読書の愉しみを知ってもらえれば尚更よいとも願っていた。」
『名著講義』 藤原正彦
藤原正彦さんは『国家の品格』を執筆されていることから分かる通り、「日本人としてのアイデンティティ」を非常に大切にされている方です。
明治維新という日本が大転換するときに、人々はどのように考えていたのか?を知ることで「日本人としてのアインデンティティ」とは何かをもう一度見つめ直すこと。新しい時代を切り開く、「自分の頭で考える」力を身につけること。読書が愉しいと感じること。がこの講義の目的のようです。
これからの時代を生きていく「自分の頭で考える」力を身につけるためには、大きく時代が変化した時に書かれたものを読むことが大事だということなんですね。
これからの時代には「自分のアタマで考える」ことが重要だと言うことは、私が尊敬するちきりんさんも指摘しており、『自分のアタマで考えよう』という本も執筆されています。
この『名著講義』の元になっている授業は、藤原正彦さんが独断と偏見で選んだ本を、一週間に一冊読んでデュスカッションする、そのあとレポートにまとめて提出する。というかなりハードな内容です。
一週間に一冊、本を読むのだけでも大変なのに、そのあとデュスカッションもして(かなり質の高い)、レポートも毎週提出しなければならない(大学時代の私だったらとてもこなせない)講義をお茶の水女子大の学生さんはなんなくこなしてしまうのはさすがだなと思いました。
『名著講義』で取り上げられていた本はこちら。
- 「武士道」 新渡戸稲造
- 「余は如何にして基督信徒となりし乎」 内村鑑三
- 「学問のすゝめ」 福沢諭吉
- 「新版 きけわだつみのこえ」 日本戦没学生記念会編
- 「逝きし世の面影」 渡辺京二
- 「武家の女性」 山川菊栄
- 「代表的日本人」 内村鑑三
- 「山びこ学校」 無着成恭編
- 「忘れられた日本人」 宮本常一
- 「東京に暮らす」 キャサリン・サンソム
- 「福翁自伝」 福沢諭吉
- +藤原正彦 最終講義
「自分の頭で考える」読書とは?
この本の中で藤原さんは学生さんたちに「それが書かれた時代背景を把握すること」「筆者がどんな思いでそれを書いたのか思いを馳せること」が読書において重要であることを説きます。
本が書かれた時代や著者の背景を知ることで、「なぜそれが書かれたのか?」「どういう目的で書かれたのか」を考えるようになります。するとそこに書かれている情報を客観的に受け取って「自分で考える」ようになるのです。
わたしが『福翁自伝』を読んだときに、「この考え方は今では常識では?」と思うことがたくさん書かれていました。
例えば、それまではオランダ語を一生懸命勉強していた福沢諭吉がこれからの時代は「英語だ!」と気がつく場面があります。今の時代はアメリカ一強でグローバル化が進んでいる世の中で真先に学ぶべき言語は「英語」というのは常識です。
これからは「英語」が必要だ!と感じる福沢諭吉のすごさは、それが書かれたのが明治時代で外国語といえばオランダ語を学ぶのが常識だった時代だということを知っていないと、わからないのです。
これは名著であろうが、書かれた背景を知ることはそこから情報を的確に受け取るために重要なことです。書かれたものがどう言う状況で書かれたのか、どういう目的を持って書かれたのかを知ることは、情報を受け取って考えるステップの第一歩です。
この背景を知っておくと、さっきの例でいくと「福沢諭吉はなぜ英語だと思ったのか?」「なぜこれからはアメリカ(orイギリス?)だと感じたのか?」と考えを広げることができるからです。
こんな考えまで広げられると、今の時代と比較して「これからはどんなものが来るのか?」という考え方(思考のプロセス)を真似することができるようになるのではないでしょうか。
これからの時代を生きていくために必要な考え方は明治時代の本が教えてくれるというのが、藤原さんの主張です。それは明治時代がどんな時代だったかを知ることで、なぜ藤原さんがそんな主張をするのか見えてくるのではないかと思います。
わたしの少しの手持の知識をフル活用してみると、明治は鎖国していた江戸時代と打って変わって外国(オランダや中国以外の)のもの(人・文化・習慣・言語など)が日本にものすごい勢いで流入してきた時代です。日本のグローバル化の始点となる出来事です。
今まで日本人が持っていなかった価値観が示されました。すると今まで出会ったことのないものとどう対峙していくか、自分とは日本人とは何か、これからどうしていくべきかを色んな人が「考えた」時代だったのではないでしょうか?
これから(日本が)どうなっていくかわからない、激動の時代に「考えられた」ことを追体験することは、自分の「考え方」を磨くのに非常に役に立ちます。
今の時代は、ネットが一般庶民に普及してグローバル化が猛スピードで進んでいます。様々なことが世界標準になっていくなかで、いままでの日本の常識は世界の非常識になりかねません。この変化が激しい時代を生き抜くためにも、自分の「考え方」を磨いておいて損はしないのではないでしょうか?
それでは、また!