今回は朝井リョウさんの「何様」をご紹介します。
最近「何様」が文庫化されて、書店にも平積みになっていたので手に取った作品です。
「何様」は「何者」のアナザーストーリーが詰め込まれた作品なので、まず「何者」を読むことをオススメします。
朝井リョウさんは、私と同じ平成生まれゆとり世代。
平成生まれゆとり世代の空気感や、時代の空気の捉え方がとても上手で、作品を読んでいると「そうそう!」とか「あるある!」とか思うことがとても多いのです。
「何者」はそんな平成生まれゆとり世代が就職活動を通して、自分が「何者」であるかを問うていく作品です。
「何者」は最後のどんでん返しが、ハラハラしてスリル満点!
もう一度「何者」を読み返してから「何様」を読むと良いかもしれません。
もくじ
作家 朝井リョウさんについて
朝井リョウさんは1989年5月生まれ。
平成生まれで、私とドンピシャ同じ年です。
朝井リョウさんは、「桐島、部活やめるってよ」「何者」など映画化されている作品が多いのでご存知の方も多いかもしれません。
人間関係の空気感、会話のリズム、登場人物の心理などの描写が巧みです。
私たち『平成生まれのゆとり世代』が持つ、なんとも言えない空気感を言語化してしまうので読んでいて驚かされます。
今回ご紹介する「何様」は「何者」のアナザストーリーなので、まずは「何者」を読んでおくと世界観に入りやすいです。
簡単に振り返る「何者」のあらすじ(ネタバレなし)
主人公は、大学生の二宮拓人。
大学の演劇サークルで脚本を書き、人を分析するのが得意。
拓人とルームシェアをしている、大学生神谷光太郎。
光太郎の元カノで拓人が片思いしている相手である田名部瑞月。
瑞月の友達で、二宮・神谷の上の階に住む”意識高い系”大学生小早川理香。
理香の彼氏の宮本隆良。
この5人が理香の部屋を「就活対策本部」として、定期的に集まるようになる。
それぞれの経験、ツールを駆使して就活に臨む。
それぞれの思いや悩みはSNSに吐き出され、そこから見える自意識や本音がこの5人の人間関係を変化させていく。
そこに裏切り者が現れた時、他の4人はどうなるのか...?
”就職活動”を通じて「何者」かになろうとする、大学生ならではの青春物語。
朝井さんの「何者」でのSNSの使い方が本当に上手なんです。
そして、私たち世代のリアルがそこにあって、読んだ当時背筋がぞぞっとしました。
「何様」あらすじ
何様
朝井リョウ 著 新潮文庫 (410ページ)
先ほどご紹介した「何者」のアナザストーリーを6篇集めて1冊ににまとめたのが「何様」です。
目次は下の通りです。
- 水曜日の南階段はきれい(神谷光太郎)
- それでは二人組を作ってください(小早川理香と宮本隆良の出会い)
- 逆算(サワ先輩)
- きみだけの絶対(烏丸ギンジ)
- むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった(田名部瑞月の父)
- 何様(??)
実際に「何者」に出てきていて、物語の中心となっているのは①の神谷光太郎と②の小早川理香、宮本隆良、③のサワ先輩でした。
他の④、⑤、⑥は「何者」に出てくる人はいないので、新鮮な気持ちで読めます。
「何様」で印象に残った話3選
水曜日の南階段はきれい〜夢ってなに?〜
これは「何者」の助演男優でもある神谷光太郎の高校3年生のときのお話です。
この本の中で、一番透き通っていて、美しい話。(これだけでも読む価値あり!!)
「何者」では、ずっと忘れられない女の子がいて、その子に会えるかもしれないと思って出版社を選びます。
高校時代もバンドを組んで、ゲリラライブとかをして学校でも人気があった光太郎。
光太郎と、バンドで輝く神谷くんを見守る夕子さんの切ない恋のお話です。
私は光太郎が片思いしてる女の子ってどんな子なんだろう?って気になっていた一人です。
(朝井さん、とっても素敵な二人の物語をありがとうございます!!)
この章のキーワードは「夢ってなに?」。
俺は、夢がぎゅうぎゅうづめになっている教室の中で、とにかく一番大きな音を出さなければ、と、必死だった。自分には夢があるって思いたかった。夢に向かって精一杯頑張っている人間だって、誰かに思ってもらいたかった。
「何様」朝井リョウ
夕子さんは違った。ぎゅうぎゅうづめの教室の中で、擦り減ってしまわないよう、摩耗してしまわないよう、外側からの力で形が変わってしまわないよう、両腕でしっかり自分の夢を守ってきた。
「何様」朝井リョウ
神谷くんも、夕子さんも自分の「夢」を守りたくて必死だったんです。
社会人になった今、「私の夢ってなんだっけ?」と思うことがとても多くなっています。
こんな風に強く自分の「夢」を語れる神谷くんと夕子さんがとっても魅力的に映りました。
「自分の夢」をもう一度描こうと思わせてもらいました。
それでは二人組を作ってください〜バカだと思ってた〜
この本を読んでいて一番ドキっ、グサッときた作品。
”意識高い系”の理香と宮本の馴れ初めのお話。
姉が出ていくことになり、ルームシェアの相手を探す理香。
理香は友達を直接的に誘うのではなく、友達が憧れるようなインテリアをそろえて友達を家に呼び、一緒に暮らそうと思わせようとする、かなりあざとい作戦に出ます。
小さなころから、女の子とじょうずに二人組になれなかった。何かを察するように、女の子は私と二人組にはなりたがらなかった。いつでも私は、二人組ではない場所から、二人組をじょうずに組める子たちを見ていた。
「何様」朝井リョウ
結局、その友達にあっさり断られてしまうのですが...
理香は「バカだと思っていた」と一蹴します。
そう、友達を少しでも見下していたから「二人組」になれなかったのです。
結局、理香が「バカだと思う」宮本と付き合うことになりました。
何がグサってきたかというと、私も高校時代女の子の友達が全然できなかったのです。
その理由を振り返ってみると、どこかで同じクラスの子たちを「バカに」していたのかもしれないと思うとドキっ、グサっと私の心がやられてしまいました。
でも、こういう子結構いたんじゃないかな...
君だけの絶対〜君と僕は見ている世界が違う〜
この物語の主人公は、烏丸ギンジ(「何者」本編では拓人とかつてのサークル仲間)の従兄弟で高校生の亮博(あきひろ)。
亮博はあることがきっかけで彼女の花奈(かな)と一緒に、烏丸ギンジ手がけた舞台を観にいくことになります。
(この作品に描かれている下北沢の風景、もう改札の目の前に劇場がないのですが...)
舞台を観た数日後、花奈が亮博に舞台の話をします。
そのシーンを全く覚えていなかった亮博、こんなことを考えます。
花奈が拾い上げるものと、俺が拾い上げるものは、違う。同じ世界を生きて、同じものを見ていても。
それどころか、どちらかが真っ先に捨てたものと、どちらかが真っ先に拾い上げたものが、全く同じものだってことも、ある。「何様」朝井リョウ
同じものを見ていても覚えていること、感じることが全く違うなーと感覚的に思ってはいたのですが朝井さんが見事に言語化してくれました。
”拾い上げるものが違う”、「なるほどな」と思いました。
亮博は違うものを拾いがあげた花奈に対して、ある種の刺激のようなものを受けて良い方向に行動していくようになります。
”拾い上げるものが違う”人に対して許容、共感できる、亮博は高校生にしては少し大人びた感覚の持ち主かもしれません。
亮博のように相手を思いやってくれる男の子と結婚できたら幸せなんだろうなと思ったり...
世の中には、”拾い上げるものが違う”人に対して攻撃的になったり、拒絶したりする人が増えてきた気がします。
亮博のように、”拾い上げるものが違う”人に対して許容、共感できる世の中になれたら良いなと思いました。
人のことを評価するなんて「何様」?
「何様」のタイトルの主軸となる物語は最後の何様です。
就活を終えて、社会人1年目で人事部に配属された松居克弘(まついかつひろ)が主人公。
就職面接を受け持つ側になり、会社やその人の将来を決めることへの戸惑いが描かれています。
人を評価する自分への戸惑いを「何様」という言葉で表しています。
克弘の例以外にも、”自分がこんなことをして「何様」だよ”って思うことって結構ありませんか?
克弘の葛藤を通して、自分の「何様だよ」っという感覚がほぐれていきました。
自分が与えられた役割、やろうと思ったことをやることの大事さを教えてくれました。
自分が「何様だよ?」って思っている方はぜひ、朝井リョウの「何様」を読んで心をときほぐしてみてはいかがでしょうか。
巻末のオードリー若林さんの解説もなかなか面白いですよ。